エブリチャンス代表 川添隆司 × Bizres代表 小林昇太郎
エブリチャンスはどんな背景や思いから生まれ、何を目指すのか。コンサルティング会社Bizres代表の小林昇太郎氏が、エブリチャンス代表 川添隆司に話を聞く。
アートを目指すすべての人にチャンスを
小林昇太郎(以下、小林):まず、エブリチャンスがどういうものなのかを教えてください。
川添隆司(以下、川添): Every chance for Everyone(エブリチャンス・フォー・エブリワン)という意味と願いを込めた社名です。エブリワンという言葉で想定しているのが、美術系のアーティストの方、それを鑑賞する方、我々の事業を支援していただく方の三者で、広くいうと日本中、世界中の人々です。チャンスといっても、さまざまに異なる環境や制度の中、誰もが同じようなチャンスに恵まれているかというと、そうではないと感じていました。
誰もが公平にチャンスを得られるようにしたいという願いを込めて、そんな名前にしました。
特に美術系の方面での支援ができないものかと考えたのは、例えばミュージシャンや囲碁、将棋、歌舞伎の世界には10代のスター選手の活躍が目立っているのにもかかわらず、美術に関していえばほぼ見受けられないという実情があったから。欧米との違いを考えた時に、自由度、アートの解放といった部分で、日本はちょっと遅れているのではないかと素人ながらに感じたのです。
日本の若いアーティストに何が足りていないのかを考えてみました。そういった意味で、エブリチャンスの事業でいうと、ひとつは自己実現の場の提供ということがあります。もうひとつは資金面での支援。あとはキャリアアップ、将来を考えた時のブランド企業との連携や繋ぎという場の提供です。我々は、その3つの方面での支援ができるはず、というふうに考えたのが発端です。そういった意味で、エブリチャンスの事業でいうと、ひとつは自己実現の場の提供ということがあります。もうひとつは資金面での支援。あとはキャリアアップ、将来を考えた時のブランド企業との連携や繋ぎという場の提供です。我々は、その3つの方面での支援ができるはず、というふうに考えたのが発端です。
自分なりのアートという考え方のもと、もっとアートを身近に感じられる世の中に
小林:海外の話が出ましたが、実際に行かれて、海外のアーティストに触れられて――というお話を、以前少しお伺いしました。
川添:金融機関で働いていた頃、海外出張や旅行でいろいろな国に行きました。イタリア・ミラノに行った時に、数十年来非公開となっていた壁画『最後の晩餐』がちょうど観られる年ということで足を運びました。洞窟のようなところで、テーブルの下の秘密がどうとか仔細を教えてもらいながら鑑賞しましたが、背景を理解しながら生で観るということの素晴らしさを感動とともに体験したものです。
またプライベートで、インドネシア・バリ島の山奥のウブドという場所を訪ねた時のこと。森の中に倉庫がありまして、絵画が飾ってあり、細々と販売していました。現地の若い人た
ちが描いたもので、素朴な山の絵とか、そこに生息している植物とか動物の絵とか、油絵的なものも含めていっぱいありまして、思わず買って帰ってきました。美術というのは、世界中のどこでも生活に根付いているのだと実感しました。
小林:海外に行っても、アートに関心を持つに至らない方も多いのではないでしょうか。川添さんがアート視点で見ることができる、感じることができるという素養は、どのような体験を通じて育まれたものなのでしょうか?
川添:最初は音楽でした。僕は子供の頃、ピアノを習っていました。ごく普通のサラリーマン家庭ではありましたが、いろいろ習い事をさせてもらい、その中でピアノだけが長続きしたものです。それでもアーティストを目指す代わりに、大学卒業後は金融機関で働いたという点には、矛盾もありますね。
感覚的にいうと、絵を観る、もしくは音楽を聴くというよりも、脳で感じるというのがあると思います。音楽というのは身近に馴染む機会があって、しかも聴覚というのは長く記憶に残ります。美術の場合も、四角四面に美術館に観に行けといわれても、なかなか足が向かないでしょうし、行ったところで何か分からないなというのが実情としてあると思います。そういった時に、見方とか味わい方の視点を変えるというのがひとつあるのかなと思いますね。どういう見方をするのかというのは、誰かに決められることではなく自由です。その絵を観て自分がどう感じるのかという時に、作者の思いといった情報を入れてもいいですし、作者の立場になって考えてもいい。ストーリーを鑑みながら観ると、随分楽しみ方が違ってくるのかなと思います。
ピカソを観に行くのもいいですが、ストリートで若い人が描いているものをいいと思ったら、話しかけてみてもいい。行動も見方も自由です。そういう見方も含めてアートを大衆化していく、皆のものにしていくことが大事だと思います。欧米、特にヨーロッパと比べると、日本はまだそのあたりが違うのかなと思います。
小林:日本人はアートというと、ハードルが高いとか敷居が高いとか、どう観たらいいか、感じたらいいか分からないという。でも今おっしゃられたように、そこは非常に自由なのだと。その発想の転換、自由な見方というものを皆さんに知ってもらえたら、アートの見方、関り方も違ってくる気がしますよね。
川添:「モナール(Mon Art)」という言葉を浸透させたいと思っています。フランス語で「私のアート」という意味ですが、みんなが自分のアートという概念を持てば、もっと自由が広がると思います。そういうことが根本的に大事なのではないかと思います。
ハートフルポートフォリオという考え方
小林:アートと金融というと真逆なものという感じを受けますが、だからこそ見出せたものがあるような気がします。それがエブリチャンスのユニークさに繋がっているのではないでしょうか。
川添:投資信託の分野にはポートフォリオという概念があります。投資する先を分散してリスクヘッジをしましょうという考え方です。しかし、本来の人間の行為の上ではヒューマンポートフォリオというのがあるのかなと思っていまして、人間として生まれてから死ぬまで、自分の心、行動、投資の仕方というのが毎日同じではつまらない。いろいろな形で自分を満足させるものをやってみて、その中で心のバランスをとって、充実した生活をしていくことが必要だと思っています。それを実現させる考え方として、私の方ではハートフルポートフォリオという言葉を使っています。
ポートフォリオにはもっとハートの部分が重要で、お金を投資してお金を増やすことはあくまで手段でいい。エブリチャンスでは、もっと心の満足の部分をどういうふうに増やすかということについて、例えばお金の使い方でしたり、こころの持ち方を変えることで一緒に考えてみませんかという提案をしていきたいと思っています。
小林:まさに今の時代にこそ必要な考え方ですね。資本主義経済における心の拠り所ではないですが、何が人間としてあるべき生き方で、幸せなのかというところは、誰もが思い悩んでいることだと思います。そういう中でエブリチャンスが発信するメッセージが非常に重要性を持ってくるのではないかと思います。
川添:例えばイタリアでは、美術が日常に溶け込んでいるイメージがありますよね。小さなアパートでも、一幅の絵が飾ってあったりします。それがなんとも自然に飾ってあって、自然に話のネタになります。
日本では長いこと経済成長がすべてで、経済至上主義みたいな部分がありましたから、そこの見直しが人間としても日本人としてあった方がいいと思います。コロナとかナショナリズムですとか戦争といった大きな世界的問題がありますが、そういうことを緩和するひとつの方法としてもアートという可能性があるのではないかと思います。
アーティストへの支援が普通のこととなる時代を目指して
小林:エブリチャンスに関わるいろいろな方々がいらっしゃいます。アーティスト、応援される企業さん、それぞれに対して思いがあると思います。これからアートを志したいという学生さんたちにメッセージはありますか?
川添:美術に携わる学生さんは、本来は芸術に24時間特化してもらうべきであり、我々はそうできるような環境づくりをバックアップしていきたい。その中で、せっかく才能があるのであれば、頑張ってひたすら磨いていってほしいと思います。ただ、卒業してからの在り方については、自分の才能を安心して磨き続けていけるように、ある程度、経済的社会的な基本部分は備えとして避けて通れないのも事実です。でもそればかりやっていると、本来のやるべきことと逆行してしまいますので、周りからのバックアップを受けながらでも芸術活動を頑張っていき、その中で日本の芸術をさらに盛り上げていただけることを期待しています。
小林:バックアップする企業に対してはどうでしょうか? どういう形で支援していいか分からない企業もあるかと思います。
川添:私はちょうど、会社勤めの時にバブル経済を経験しています。株によってキャピタルゲインを得たり、バブル崩壊とともに投げ売りしたりを経験しました。エブリチャンスの事業に関しても、企業側は作品に対してのキャピタルゲイン云々を期待されるかもしれませんが、まずはSDGsの流れの中で、日本の文化水準を上げるアーティストに対しての支援として、いわばSDGsの18番目の項目として捉えていただければと願っています。
小林:学生さんもアーティストを志したいけれども、経済的な不安から諦める方も多いと思います。そういう方々を、これからどうバックアップしていくべきでしょうか。エブリチャンスが今後どういう形で発展していくのか、そして目指すべきゴールはどこにあるのでしょうか?
川添:思いという意味でいいますと、我々が問題意識を持ってこういう会社を立ち上げましたというのが背景としてありますが、ゴールはおそらく、我々の会社が必要でなくなる時だと思います。世の中のコンセンサスとして、アーティストへの支援が普通のこととなり、誰もが応援するということになれば、その時が私の思うゴールなのではないでしょうか。まだまだ時間はかかると思いますが、その背中を押していくことが我々の使命です。
小林:最後にお伝えしたいメッセージがあればお願いします。
川添:アーティスト支援事業をビジネスとしてやり上げることは、なかなか難しいでしょう。応援してくださる方が一人でも多く出てくることが何より嬉しいです。思いとかコンセンサスというのを、今だとSNSも含めて地道にいろいろな形で発信していきますので、ご協力をお願いいたします。お金の援助に限らず、まずはアートと寄り添う思いをあと少しだけ持っていただくだけでも十分なので、ぜひお願いしたいです。