ダイアログ
久保田 智広
投稿日:2021-01-25
自分自身の体験を動機として
――どのような作品を手掛けられているのか、教えていただけますか?
久保田:版画や絵画、映像、写真などを用いてインスタレーションと呼ばれる形式で作品発表を行なっています。自分自身の体験を動機として一部の問題を解決するプロセスを制作に落とし込むことが多いです。。
――それはどのような作品なのでしょうか?
久保田:主に所有や選別、価値について言及するような作品です。
例えば、学部の卒業制作では「ある許容を超えたものを許容可能な範囲まで減らす」ということをコンセプトに、“すでにある物を選び直す、考え直す”というプロセス自体を、パフォーマンスインスタレーションという形で作品に落とし込みました。それは当時の僕自身の身の周りの環境が原因となった、非常に私的な問題解決のための作品でもあったのですが、そこで取り扱った内容は普遍的な意味を持ち、それ以降もそのことに対して考えるようになりました。
芸術においては1から新しく何かを作り出すということが前提とされることが多いものの、これから先の未来それが実際的には難しい状況に直面する可能性もあり、そもそも「作品を作るとはどういうことなのか」を考える必要性はあると考えています。
芸術の世界にも環境問題の観点が導入されてきた昨今、むやみな表現、承認欲求や市場の原理を元手に新しいものをひたすら作り出すということが、世の中にどのような影響を与えるかということに思いを巡らせた時、すでに存在するものを捉え直す方がよっぽど生産的だなと思ったのです。必要以上に作品を作り続けない方がむしろ健全であるという考えを、自分自身の主張として制作行為につなげています。
――創作の根源にあるのは、久保田さんの想いなのですね。
久保田:そうですね。自分自身と対話して作っていく。作品には、僕の置かれている状況や環境への想いというのが反映されていると感じます。
もともと、僕は作り手になろうとは考えていませんでした。アートやクリエイティブの世界に興味を持ち、キュレーターやアートディレクターを志していたのですが、当時は大学にそういったことを学ぶ専攻がなく、比較的自由に学ぶことができる油絵科に進学しました。絵画も好きだったので、自分も作ることで理解が深まると思ったのです。最近は、キュレーションやマネージメントも含めて表現行為に還元することができると知り、そのままアーティストとして活動していこうと決めました。
――今後、どういった作品を作っていきたいですか?
久保田:僕はすでに存在する物を扱って、どう表現行為に結び付けられるのかということを考えています。それはどのような土地で行うかということも大事になってきます。日本という場所は自然災害も多く、有効活用できる土地も多くありません。そのため、何かを所有し続けていくことが困難であり、長く保管していくという西洋美術の考え方が即さないのではないかとも感じています。そこから派生して、ひとつは美術館の収蔵作品を使って、物の再選別や歴史の選び直しのようなことをテーマに、何かプロジェクトができれば面白いかなと思っています。
僕1人では専門知識が足りないので、チームとしてプロジェクトを組むことができたらいいですね。また、長期的にはそういったこと、日本に留まらず海外でも展覧会ができればと思っています。僕の思想は日本由来であり、少なからず神道や仏教思想のようなものに根ざしています。
一方で、西洋美術のカウンターカルチャーな思想というのもあるので、ラディカルなアプローチをするのであれば、海外で発表した方が影響力は強いのではないかとも思います。キャリアを積んでチャレンジできたらいいですね。まずは、アーティストとして生活できるように下準備を行い、近いうちに個展形式の展覧会ができたらいいなと考えています。
【プロフィール】
作家名 久保田智広
クボタトモヒロ
1992年
東京都生まれ
現在東京と横浜を拠点に活動。
2020 東京藝術大学美術研究科修士課程版画専攻 修了
2018~2019 ウィーン応用芸術大学(Universität für angewandte Kunst Wien)交換留学
2017 東京芸術大学 美術学部絵画科油画専攻 卒業